🌾簡単に重加算税を受け入れてはいけません
調査実例1
自動車タイヤを販売している会社の税務調査で、スクラップタイヤの売却代金の入力漏れが見つかり、調査官はこの代金の申告漏れに重いペナルティ(重加算税)をかけると言いました。このスクラップ代金は、日報には記録されていたのですが、何故か会計ソフトに入力するときに入力漏れをしてしまったものでした。 |
🍚税務職員が重加算税をかけたい理由
調査で売上などの漏れが見つかったときに、通常のペナルティである過少申告加算税に比べて、納税者にとってより重い負担になる重加算税を課すという調査官が多いです。これは、納税者に重加算税を課すことができると、国税(税務署)内でその調査官の評価が上がるからです。私は税務署で務めた経験はありませんが、今まで調査に立ち会った調査官の対応からしても、このことは確かだと思います。自分の評価を上げたいのは分かりますが、本来なら重加算税は課されない事例でも調査官は重加算税を課し、納税者に余分な税金を納めさせていることが結構あります。
🍚重加算税を課されることのデメリット
調査で重加算税を課されてしまうことのデメリットは、主に以下です。
(1)加算税率が高くなる。
過少申告加算税に比べて、3倍以上の税率になります。
(2)延滞税も高くなる。
例えば、3年前の申告について修正する場合、通常の延滞税は1年間分を超えてかかることはありませんが、重加算税が課されると3年間分の延滞税が課されます。
(3)将来の調査頻度が増える可能性が高くなる。
相続税を除き、重加算税を課されるとほぼ確実に3年以内にまた調査が行われ、その時の調査の内容次第では、その後も3~5年毎に調査が行われる可能性が高くなります。
(4)要注意先として国税内部のデータに登録され続ける。
「過去の調査事績等から不正計算が想定され、特に注視する必要がある法人」として、国税内のデータに登録され続けます。重加算税が課された後の何回かの調査で特に問題が無ければ外されることもあるようですが、現実的にはかなり難しいようです。
🍚本当に重加算税が課される場合とは
堅苦しくなりますが、重加算税について定めた法律の条文と裁判例により、重加算税が課される要件をご説明します。なお、( )内の文章と下線は私が記しました。
(条文)
「・・・(略)・・・納税者がその国税の課税標準等(簡単に言えば利益のことです)又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したときは、・・・(略)・・・重加算税を課する。」(国税通則法68条)
(隠ぺい→かくすこと 仮装→いつわり、よそおうこと 広辞苑より)
(裁判)
「・・・(略)・・・納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行為をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解すべきである。」(最高裁 平成7年4月28日言渡し)
つまり重加算税が課される場合とは、納税者が税金を少なくするために故意(意識的、意図的)に事実を隠している又は事実を偽っていると、誰の目からも明らかに分かる行為をしている場合です。
🍚スクラップ代金計上漏れは重加算税か?
この事例では、日々の日報にはスクラップ代金は記録されていたのですが、会計ソフトに入力するときに、細かい事情は分からないのですが結果的に事務の方が入力漏れをしてしまったものでした。
重加算税が課されるためには、「ワザと隠した、偽った」ことが必要です。会計ソフトへの入力が漏れていたことは確かに良いこととは言えませんが、それだけで「ワザと」入力しなかったと言えるでしょうか?当然ですが、社長さんが事務の方に「このスクラップ代金は入力しないように」などと指示した事実はありません。スクラップ代金を意識的に除外する気なら、日報にも記録しないのではないでしょうか?この事例では数件のスクラップ代金の漏れがあったのですが、全て日報には記録されていました。
私は上記の裁判例も根拠にして、調査官とその調査官の上司に「ワザとスクラップ代金を入力しなかったのではない」ことを主張し続けました。自分たちの実績にかかわるせいか(笑)、二人ともなかなか引き下がりませんでしたが、2時間近く交渉し最終的に重加算税は取り下げられました。
🍚「重加算税を課します」と言われたときの反論の仕方
何度も言いますが、国税が納税者に重加算税を課すためには、納税者が「ワザと(故意に、意識的に)」に事実を隠したり偽ったりしたことを証明しなければなりません。ワザとではない、単なるミスだと思ったときは、精神的にしんどいこともあるかもしれませんが、粘り強く調査官に主張して下さい。
この事例でも、スクラップ代金の受取書を社長さんが無くしてしまっていたこともあり状況は不利でしたが、単純ミスであることを何度も主張し続けました。
調査官が納得しないときは、調査官の上司(統括官といい、通常は税務署内に居て調査には来ません)に税務署に出向くなり電話するなりして主張してみて下さい。上司も含め納得しないときは、ワザと事実を隠した、偽ったということを立証してほしいと伝えてみて下さい。税金をかけるための要件を証明する「立証責任」は、基本的に国税にあります。
🍚質問応答記録書には、絶対に署名してはいけません
重加算税を課したいがはっきりとした証拠がない、納税者がワザと事実を隠したり偽ったことがはっきりと証明することが難しい、というときに、調査官は質問応答記録書という書類を作り納税者に署名させようとすることがあります。この書類は、納税者が正確な申告ができていなかったことの経緯などが書かれているのですが、納税者がワザと収入を隠した、偽ったとは書いていません。例えば、「納税者が収入を脱漏した」というように書かれています。「脱漏」という言葉は、「つい漏らした」という意味に捉える方もいらっしゃるかもしれませんが、「意図的に漏らした」との意味になります。
調査官に執拗に署名するように迫られ、署名すれば調査を終了するなどと言われ、つい署名してしまうこともあるようですが、これが結局自供書なってしまい重加算税を課せられることもあります。 質問応答記録書(自供書)は、納税者が納得していないことについて、国税が主張の根拠にするための証拠資料にするためのもので、署名は避けるべきです。執拗に調査官が署名を強要してきたときは、署名を強要できる法的根拠を説明してほしいと伝えて下さい。質問応答記録書は法的に納税者に署名を義務付けているものではないので、説明できないはずです。
🍚お手軽に重加算税が課されている
国税庁は重加算税を課さない例として、今年に計上しておくべき収入を翌年に計上していた場合、本来翌年に計上すべき経費を今年に入れてしまっていて、その経費の支払いが現実にされていることが確認できた場合などを公表しています。https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/hojin/100703_02/00.htmより見ることができます。少し分かりづらい個所もあるかもしれませんが、よろしければご参考にされて下さい。
税務職員は、自分が所属する税務署の上部組織が公表している重加算税を課さない例に当てはまるにもかかわらず、納税者が税務に詳しくないことをいいことに、重加算税をかけると言ってみて、もし納税者が呑めば儲けもの、といった調査官がいることは事実です。
繰り返しますが、重加算税が課されるには納税者が「ワザと(故意に、意識的に)」事実を隠ぺいしたり、偽ったりしていることが必要です。重加算税をかけられても仕方がないというときは別ですが、申告ミスはあったが「それはワザとじゃない」と思われるところがあれば、何とか粘って主張し続けて下さい。